医学生の皆さんへ 3次修練(医学部5年生)実施要項
神経内科で臨床実習にとりくむ医学生の皆さんへ
必ず役立つ−神経内科の臨床実習−
神経疾患はまれで難しい病気ばかりと考えられやすいのですが、実はそんなことありません。頭痛,めまい,しびれ,脱力(感),ふるえ,もの忘れといった症状は、日常診療では大変ありふれたものです。皆さんがこうした症状の患者さんを前にしたとき、(たとえ何科であっても)臨床医としては的確な判断を要求されます。もし緊急性のある疾患となれば、検査・治療を一刻も早く行う必要があります。治療の遅れが予後に重大な結果をまねきかねないからです。ところが、このような症状をもつ方は大変多いのに全てが重症疾患とはかぎりません。しかも、心配や不安といった心因性要素の影響を受ける場合も多くあります。たとえばテレビ番組でとある重篤な神経疾患が紹介されただけで、翌日の外来に似たような症状の患者さんが列をなすような事態もあるわけです。
さて、そのような臨床の現場で緊急性はどうか?器質的障害はあるのか?といった客観的な手がかりを得るために、診察室ですぐにできることはないでしょうか。それこそ、神経内科で学べる論理的思考と技術(神経学的診察法)なのです。これらを習得することは、きっと今後の研修、そして診療に役立つでしょう。
目標その1:神経診察(神経学的診察)法に習熟すること
神経内科の臨床実習では“神経学的診察法に習熟すること”が第一の目標です。神経学的診察は注意深い観察から始まります。ハンマーや眼底鏡などの道具を用意しないと診察できないわけではありません。たとえば じっとしている姿勢、寝たり起きたり,衣服を着たりといった動作、歩行、会話など日常的な所作のなかには様々な神経学的徴候(サイン)が隠されていて、それらを注意深く観察して所見と捉えることが大切です。このようなサインを見逃さないためには、かならず神経系の成り立ち(機能解剖)と結びつけて個々の診察手技の意味を理解するとよいでしょう。さらに異常をうまく、もれなく見出すために順序だった(系統的)診察の流れを身につけましょう。上手に診察所見(神経学的所見といいます)を得られると、すぐさま診察場面で病変部位の推定(局在診断)ができます。すると、優先すべき検査の選択,ひいては的確な診断への近道をあゆむことができます。目標その2:神経疾患の症例を通して医学の原点を体験すること
皆さんは病棟の診療チームに配属されます。そこでは検査機器やデータのみの医学ではなく、ベッドサイドでの診察を中心とした一連の診療、医学(内科学)の原点を体験することができます。病歴聴取と神経学的診察をきちんと行えれば、病態・病変部位を推定することができます。ぜひもう一歩ふみこんで鑑別疾患を複数列挙できるようになりましょう。そうしたら診断に必要な優先度の高い検査は何でしょうか、診療チームの医師と一緒に考え議論に加わりましょう。調べて分からないことは遠慮なく上級医に質問してください。自分で考えた暫定診断を裏づける検査結果が着々と得られて診断に至ったとき、その達成感はまさに内科の醍醐味と感じられるはずです。さて、診断がついた患者さんに今できることは何でしょうか。そして診断結果をどのように説明しますか?診断に基づく適切な治療の選択、その効果の判定、さらにケアから療養まで、神経疾患の症例を通して論理的・客観的な思考を養いましょう。診療に携わるのは医師だけではありません。患者さんをとりまく医療の中で医師の役割とスタッフ間の連携にも興味をもってください。また、患者さんの今だけを考えてはいけません。この患者さんに、今後どのような病態の変化が予想されるでしょうか。そのためにできることは何かありませんか?
こうした診療参加型実習は、今後どんな臨床医となっても役立つ体験となるに違いありません。しかしながら、それは参加するあなたたちの姿勢次第です。神経内科ではさらに種々の検査法(腰椎穿刺,筋電図,神経・筋生検など)や研究についても興味をもって学べるチャンスを提供します。事前に勉強してから参加すると、検査の見学もずっとリアルで意味のあるものと感じられるでしょう。さぁ、積極的にこの臨床実習に取り組んでください。成功の是非はあなた次第です。
推薦テキスト
神経内科のテキストを紹介します。神経内科の病棟にもありますから、紐といてみましょう。 | |
神経内科ハンドブック:鑑別診断と治療 | 水野美邦 文光堂 |
ベッドサイドの神経の診かた | 田崎義昭,斎藤佳雄,坂井文彦 南山堂 |
神経症候学を学ぶ人のために | 岩田誠 医学書院 |
臨床のための神経機能解剖学 | 天野隆弘 中外医学社 |
神経診察クローズアップ − 正しい病巣診断のコツ | 鈴木則宏 メジカルビュー社 |
Merritt's Neurology | Louis ED, Mayer SA, Rowland LP Wolters Kluwer |
脳MRI 〈1〉 正常解剖 | 高橋昭喜 秀潤社 |
脳MRI 〈2〉 代謝・脱髄・変性・外傷・他 | |
脳MRI 〈3〉 血管障害・腫瘍・感染症・他 | |
学術誌の特集や学会誌に掲載される症例報告も役立ちます。 | |
Brain and Nerve | 医学書院 |
神経内科 | 科学評論社 |
Clinical Neuroscience | 中外医学社 |
臨床神経 | 日本神経学会 |
3次修練(医学部5年生)実施要項
教育目標:
卒後研修に役立つ内科的な臨床能力を習得するため、A) 実際の症例を通して神経学的診察・診断・治療・ケアの基本的知識および手技を理解し修得する
B) とくに神経学的診察法については、その意義を理解し正確な手技を身につける
個別目標:
1. 医療面接の基本を習得し、診断に役立つ病歴が聴取できる
2. 基本的な神経学的診察法を習得する
3. 患者−医師間の信頼関係構築への配慮ができる
4. S.O.A.P.に基づいたカルテを記載できる
5. 診療チームの一員として医師の役割を理解できる
6. おもな神経疾患の病態を理解し概説できる
7. おもな神経疾患に必要な検査と治療法を理解できる
8. おもな神経救急疾患への対応を理解できる
9. 診断・治療のために新たな知見を求め検索することができる
10. 臨床研究の重要性が理解できる
評価
1. 形成的評価各個別目標にかかわる実習態度、理解と技能、問題解決について、診療チーム指導医、病棟医長、教育担当主任が全期間にわたって評価を行う。第三週目に中間評価(口頭試問を含む)を行い、その結果を各学生にフィードバックする。
2. 総括的評価
全期間にわたる実習態度、理解と技能、問題解決について観察記録をもとに教官全員が評価し、複数項目からなる全科共通の評価表に記載する。さらに、終了時の提出レポート、最終日のまとめにおける口頭試問の結果を加味する。
神経内科・3次修練 演習シリーズ
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3次修練(5年生)スケジュール