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医学生の皆さんへ 神経学的診察(神経診察)

4年次通論(講義)3次修練(医学部5年生)高次修練(医学部6年生)神経学的診察

 

神経内科で臨床実習にとりくむ医学生の皆さんへ
− 神経学的診察(神経診察)−

 

なぜ神経学的診察が大切か
 日常診療において、頭痛,めまい,脱力,しびれ,ふるえ,もの忘れといった症状は大変ありふれたものです。そのような症状を前にしたとき、器質的・機能的な障害はあるのか?緊急性はどうか?検査は必要なのか?など的確な判断を迅速に行うために、臨床の現場で皆さんがまずできることは何でしょうか。
 当然のようですが、それは (1) 役立つ病歴を聴取すること、(2) 診察を行って所見を得ること、の2つです。病歴を有効に聴き取ることができると病態を想定できるようになります(病態診断)。一方、診察をきちんと行って所見を得ることで病変部位が推定できるようになります(局在診断)。この2つがそろって初めて正しい診断(臨床診断)にいたるわけです。
 この3つの診断の中で、局在診断というステップを正しく行うために有効な技術として、神経学的診察法が確立しています。このような診察技法が神経疾患を対象とする場合には特に重要なのです。なぜなら、神経系は身体全体にわたって広く系統的に存在すること、部位によってはたらきが異なること(機能局在)、体表に現れず管腔臓器でないこと、そして高度に分化し再生困難な臓器であること、といった他臓器にはない特徴をもっていて検査手法に限界があるからです。

神経学的診察のもつパワーはなにか
 神経学的診察は個々の臨床検査にはない3つのパワーをもっています。それは (1) 全身を診て病変部位が分かること〔網羅的な局在診断〕、(2) 現在の機能を評価できること〔リアルタイムな機能評価〕、(3) すぐにその場で結果が分かること〔迅速性〕です。さらに診察ですから非侵襲的で場所を選ばない点も見逃せません。
全身の神経機能をリアルタイムで診ることができる検査法はまだ存在しません。さまざまな検査法が発展している現在でも、器質的病変だけでなく機能異常を広く捉えることのできる画像検査法は未確立です。しかし、神経学的診察ができるというだけで、脳や脊髄といった中枢神経系から末梢神経、はては骨格筋にいたるまで網羅的に“機能異常”の有無を知ることができるのです。
病態によって、また疾患の病期によって症状が変動することは少なくありません。むしろ日内変動や日差変動を特徴としたり、機能性の病態(functional disorder)が発作期・間欠期を示したりする神経筋疾患もよくあります。そのような場合、すぐに診察して現状を把握できること、リアルタイムで機能を評価できる神経学的診察法はきわめて有効な技術です。
以上のように、「神経学的診察を行える医師 = 正しく局在診断できる医師」ということになります。

神経学的診察を行うときのポイント
 神経学的診察をはじめて学ぼうという皆さんは、まず (1) 注意深い観察,(2) 正しい診察の形と正常所見が分かること,(3) 患者さん(被検者)への配慮,ができるようになりましょう。その後、神経内科の3次修練では (4) 病的所見が分かること,(5) 病変部位が分かること、へとレベルアップできます。
注意深い観察: 基本は注意深い観察から始まります。たとえば、顔つき(顔貌)、じっとしている姿勢、寝たり起きたり衣服を着たりといった動作、歩行、会話といった日常的な所作のなかには様々な神経学的徴候(サイン)が隠されています。それらを所見として捉えられれば既にかなりの情報が得られるのです。さらに、患者さんに特定の姿勢や動作をお願いしたり、腱反射のように反応を誘発したりしてサインを見出す診察へと進みます。この場合も、どんなサインがどこに生じてくるのか観察すべきポイントをおさえましょう。

正しい診察の形: まず、正しい診察手技の形を身につけ、正常所見が分かるようになりましょう。たとえば腱反射の誘発においては、a) 患者さんに力を抜いてリラックスしてもらうこと、b) 細かく連打せずスナップをきかせて打鍵器で腱を的確に叩打すること、c) 反応する筋の収縮を観察すること、が3つそろってはじめて正しい形となります。さらに異常なサインをもれなく見出すために、順序だった診察の流れを身につけるとよいでしょう(→ 「神経学的診察の手順」参照)。
また、かならず両側を診る、もれなく診察することを忘れないでください。左右差を診ることが局在診断ではとても大切だからです。たとえば腱反射では右の上腕二頭筋反射をみたら今度は左の同じ反射を診ましょう。上肢の腱反射といわれたら、上腕二頭筋反射だけでなく、上腕三頭筋反射、腕橈骨筋反射も診るという形です。

患者さんへの配慮: 常に安全に配慮するようにしましょう。具体的には、直接触れるものをディスポーザブルな用具(舌圧子、ティッシュ、爪楊枝など)にしましょう。また、なかには関節や筋肉に疼痛のある方や筋力の弱い方、外傷や皮疹がある方もいらっしゃいます。起立・歩行が不安定な場合もあります。おこなう診察手技によって苦痛や負担、けがが生じないように十分注意しましょう。
さらに、患者さんの不安や疲労にも配慮して行いましょう。神経学的診察は、意識障害や認知機能障害などで協力不十分な場合でも行えます。しかし、全体的には患者さんの協力が良好な方が有効な所見が得られます。何を診ようとしているのか、どのようにしてほしいのか、専門用語ではなく一般用語で患者さんに分かりやすく伝えながら、診察を行いましょう。言葉で説明しにくいことはあなたが見本を示す方が早い場合がありますので、試してみてください。煩雑な体位変換をお願いせず、また長時間とならないよう、坐位から立位、そして臥位というふうに手順を考えた診察の流れをつくりましょう。
神経学的診察を学ぶとき、ただ形だけをまねるというふうにはいきません。かならず神経系の成り立ち(機能解剖)と結びつけて個々の意味・ねらいを理解しながら学ぶと、身につくでしょう。さぁ、私たちも熱心に指導しますので、一緒に学びましょう。

 

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東北大学 神経内科
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