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本吉病院体験記 −被災地復興支援;ToMMo クリニカル・フェローとして−

2013/08/17

 

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早いもので、東日本大震災から既に2年以上が経過し、仙台市内では人々の脳裏からその記憶が薄らいできている昨今ですが、被災地ではまだまだ復興が十分に行われているとは言えない状況が続いております。東北大学では、平成242月に東北メディカルメガバンク機構(Tohoku Medical Megabank Organization; ToMMo; http://www.megabank.tohoku.ac.jp)を立ち上げ、この未曾有の大震災に対する包括的な復興支援を進めています。その一つに被災地の医療支援が含まれますが、ToMMoでは、循環型医師支援システム(医師3人が1組となり、各人が4ヶ月間ずつ被災地域医療に従事する方法)を導入する事によって、被災された病院への継続的な支援を可能にしています。これを担うのが、ToMMo クリニカル・フェローであり、自分は2期目を担う内科医の一人として、この度気仙沼市立本吉病院へ行って参りました(期間:平成254月〜7月)。

本吉町は、気仙沼市の南側に位置する人口約11000人規模の地域であり、未だに1000人を越える住人が仮設暮らしを余儀なくされています。本吉病院は、この地域唯一の医療機関であるため、その中心的な役割を期待されている病院です。しかし、津波により病院1階部分が全損し、震災後2名の常勤医師が退職。病院の存続自体が危ぶまれた時期もありましたが、看護師と支援医師により、なんとか被災後の半年間あまりを乗り切り(2年間で200名以上、のべ2000人・日以上の支援があったそうです)、同年10月新院長就任に伴い保険診療が再開されました。ちょうど震災後2年目にあたる、今年の311日に入院業務を再開し、正に現在進行形で医療復興が進んでいる病院です。

支援内容としては、午前7時半から朝の病棟回診に始まり、午前9-12時と午後14-17時に外来。当直が月に6回程度あり、翌日は入院患者を担当。また、週に1-2回程度、午後に訪問診療(大体4-5人程度)を行っていました。時に、周囲の小中学校の健康診断業務や、仮設住宅の医療相談など貴重な経験もさせてもらいました。入院患者は、回りに老健施設があるのと、在宅医療患者を100人程度抱えているため、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症が多いですが、小児の喘息や虫垂炎、骨折、やけど、悪性腫瘍のターミナルなど、またこの地域の中核病院である、気仙沼市立病院から在宅医療に戻るまでのクッションとしてリハビリ目的の入院患者など、かなりバリエーションに富んでいました。どうしても人手が足りないので、中々忙しい毎日でしたが、新しい院長と副院長の元、非常に楽しい病院でした。川島院長は、京都出身の元ボクサーで、一時期農業を営んでいた事があるという非常に面白い経歴の持ち主で、本吉町でも田んぼを耕しながら医療を行っています。また、早朝ランニング(自分も週に1-2回程度のペースで一緒に走っていました)を毎日欠かさずされるという個性的な先生で、坊主頭なので一見怖そうですが、とても明るく面白い先生です。ほぼ毎日お酒を飲まれておりますが、医療の最も大事なポイントは、コミュニケーションであるそうです(笑)。なので、被災地であるというネガティブな印象は全くなく、朝の回診の後皆で集まって食べる朝食は、いつも笑いの絶えない時間でした。院長・副院長の顔の広さ、そして支援医師が全国から集まった病院でもあるため、日本中から研修医や学生の見学者が来ているのも、この病院の楽しさの一つです。

また看護師を始め、被災時からずっと頑張っているコメディカルの方々が素晴らしく、非常によく患者さんを見ていて、家庭の状況なども把握した上での対応をしておりました。不慣れな環境の中、大変お世話になりました。

医者として大事な事として、病気ではなく人を診る大切さという事はしばしば言われますが、どうしても中核病院に勤務していると、目の前の病状・病気を治すことが中心になり、自宅の様子や退院してからの生活まで想像が及ばないことが多々あります。これは、被災地というより地域医療の特性でしょうが、その人の背景、退院してからどのような生活が可能か、家族や医療資源を含めた介護力がどの程度あるか、といった事まで深く踏み込んだ医療を行う必要がある点でとても勉強になりました。非常に貴重な経験ができたと思います。

今後も被災地復興には長い期間が必要であり、地域医療の人手不足も続いて行く事が予想されます。しかし、ただ支援に行くという認識だけではなく、医師として貴重な経験を積む事の出来る機会として、たとえ短期間であっても、多くの先生方に地域医療に入ってもらい、その魅力を感じてもらえたら良いなと感じました。自分もこれを機会に、今後も何らかの形で本吉病院を含めた被災地への応援を続けていこうと思っています。

 

東北大学神経内科 高井良樹}}}

 

 
早朝ランニング (motoyoshi1.jpg)
 
集合写真 (motoyoshi2.jpg)

 

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