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研究グループ紹介

神経免疫 神経変性(運動ニューロン病) 神経変性(パーキンソン病) 筋疾患

神経免疫

 

視神経脊髄炎(NMO)の病態解明プロジェクト

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 視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica:NMO、別名Devic病)は、19世紀よりMSとの異同が議論されてきた視神経と脊髄を病変の首座とする中枢性炎症疾患です。2004年、メイヨークリニックと東北大学との共同研究によって、中枢神経系の軟膜下や血管周囲に特異的に反応する抗体NMO-IgGが見いだされ、2005年にその対応抗原がアストロサイトの足突起に高密度に発現するアクアポリン4(AQP4)であることが報告されました。我々は、世界に先駆けてAQP4抗体の病態機序に関する一連の研究を報告しています。NMOの剖検脊髄病変における免疫組織学的検討では、本来AQP4の豊富な脊髄灰白質や白質の血管周囲においてAQP4は欠落し同部位でアストロサイトのマーカーGFAPも消失しており、またAQP4・GFAPの欠落とは対比的に髄鞘蛋白(MBP)は比較的保存されることを初めて報告し、NMO病変はMSの脱髄病変とは異なったアストロサイト障害が関連することを明らかにしました (図1.NMOの早期病変におけるAQP4,GFAP,MBPの発現)。当科で行ったAQP4抗体の検討では、AQP4抗体はNMOと診断された患者の91%、再発性視神経炎や横断性脊髄炎を呈したハイリスク群症例の85%で陽性であり、MSや対照群では0%であり、非常に強い疾患特異性があります。またAQP4抗体価は臨床症状と関連した動態を示す事が判明しています(図2.アクアポリン4抗体価と脊髄病変との関連)。今後は疾患特異的なマーカーとしてだけでなく、AQP4やアストロサイトの障害から神経系の障害に導かれる病態機序の解明が期待されます。当科では、AQP4抗体価などを指標とした臨床的意義の検討、細胞モデルを使用した作用機序の検討、病理学的検討、有効な治療法の臨床的検討など、多角的な研究を行っております。

(文責:三須建郎)

 

抗アクアポリン4抗体の測定依頼についてはこちらのページを参照してください。

 

 

多発性硬化症(MS)のオリゴクローナルバンドの研究

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 MS患者において、血清には存在せず髄液にのみ検出されるオリゴクローナルIgGバンド(OB)が診断上有用であり、当科では病態との関連を検討してきました(図3.オリゴクローナルバンド)。これまでB細胞を活性化し、抗体産生細胞に分化させるためにはT細胞による刺激と抗原刺激が必要と考えられてきましたが、最近ある種のサイトカイン(IL-21など)やToll様受容体リガンドなどによってT細胞非依存性に抗体産生が促されることが示され、自己免疫疾患における新たな病態解明に繋がると期待されています。我々は、MSの病変で増加しているサイトカインを組み合わせて刺激することで、T細胞非依存性、抗原非依存性に末梢血正常B細胞を活性化し、抗体産生細胞に分化させることに成功しました。これによって生み出されたIgGはMSの髄液中で増加しているのと同じIgG1アイソタイプであり、電気泳動することによってOBが生み出されます。このことにより、MS髄腔内で特定のクローンを持つB細胞がサイトカインによって非特異的に活性化されIgGを増加させている仕組みが見えてきました。これまでMS髄腔内のIgGは補体依存性にミエリンなどの組織障害に関与していると考えられてきましたが、T細胞非依存性、抗原非依存性に増加しているIgGが組織障害を引き起こすとは考えにくく、他の役割についての検討が必要と思われます。MSにおけるOBの意義は未だに不明ですが、我々はOBがMSで特異的に出現するメカニズムを世界で初めて解明しつつあります。

(文責:中島一郎)

 

多発性硬化症治療学寄附講座のホームページはこちらです。

 

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神経変性(運動ニューロン病)

 

 筋萎縮性側索硬化症ALSに対する治療法の開発を目指した基礎から臨床への橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)の実践

 

1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが傷害を受けることにより、全身の筋肉がやせて力が入らなくなり、やがて呼吸不全にいたるという最も厳しい神経難病です。日本だけではなく、世界中で難病として問題になっています。米国では、ニューヨーク・ヤンキースの鉄人といわれた、ルー・ゲーリックがこの病気で倒れたということが人々に対する大変な衝撃となり、それにちなんでルー・ゲーリック病とよばれています。東北大学神経内科を中心としたグループでは肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor: HGF)というわが国で発見された新しい神経栄養因子を用いてこのALSに対する新規治療法の開発に取り組んでいます。

 

2)HGFを用いたALSに対する新規治療法の開発(図1)

 ALSに対する治療法の開発のために、東北大学神経内科では世界に先駆けてトランスジェニックラットによるALSモデルの開発に成功しています(Nagai M, et al. J Neurosci 2001)。このラットは従来のマウスによるALSモデルに比較して約20倍の大きさを持ち、脊髄や脊髄腔に対するアプローチが容易です。これまでのマウスの脊髄は糸のように細かったのでその解析にも多くの制限がありましたが、ラットのモデルの登場によりその解析が容易になりました。また、モデルラットの開発により、ラットに腰椎穿刺を行って脊髄の周りを取り囲む脳脊髄液(髄液)を採取してその解析をすることが可能になりました。さらには薬剤の効率的な投与法として米国などでは患者さんに試みられている薬剤の脊髄腔内投与(腰椎穿刺による髄液内への薬剤投与)を動物モデルで行うことが可能になりました。このALSラットに対してHGF(リコンビナントHGF蛋白)の脊髄腔内への持続投与を行ったところ、発症期からの投与開始でも病気の進行を大幅に遅らせることに成功しました。現在ヒトに使用可能なGMP基準(WHO(世界保健機構)が規定する医療品製造の優良製造工程の実施基準)を満たすヒト型リコンビナントHGF蛋白の産生も開始されました。慶応大学、大阪大学、クリングルファーマ社との共同研究によって霊長類(マーモセット)に対してHGFの髄腔内投与を行いその安全性を確認するとともに臨床用量の設定を行う実験も開始しています。これらの検証後は患者さんへの臨床試験(治験)を東北大学未来医工学治療開発センター(トランスレーショナルセンター)の協力のもとで、厚生労働省へ申請する予定です。

 

3)ALSに対する神経再生療法の開発

 HGFによる運動ニューロン保護療法の開発に加え、私たちはさらに将来的な治療法開発にも取り組んでいます。それは「神経再生」療法への挑戦です。近年、私たち成人の脳や脊髄にもニューロン新生を可能とする神経幹細胞が存在することが明らかとなり、しかも脳の限られた領域では終生にわたってニューロン新生が続いていることが分かっています。また、種々の幹細胞から目的とするニューロンを分化誘導できる培養技術の発展はめざましい限りです。 神経再生療法に対する期待は高まる一方ですが、実際にALSの神経再生をねらうには大きく分けて2つの神経再生療法が考えられます。一つは体外で培養した幹細胞やニューロンを脳や脊髄に植え込む「細胞移植」療法であり、もう一つはもともと脳や脊髄にある神経幹細胞(内在性神経幹細胞)を薬剤などで分化誘導して再生を実現する「活性化」療法です。 安全かつ有効な神経再生療法開発のためには、ALSのモデル動物を用いた基礎的研究が不可欠です。マウスに比べラットでは細胞移植や薬剤投与研究がずいぶん容易に行えるため、私たちが新しく開発したラットのALSモデルを用いて神経再生研究を行っています。最近、私たちはALSラット脊髄の病変部位では再生阻害因子が強く発現していることを報告しました(Mizuno H, et al. J Neurosci Res, 2008)(図2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の異常沈着 Non-TgはALSでない動物、TgはALSラットをあらわす)。細胞移植・活性化のどちらの戦略においても補充細胞が生着し有効なネットワークをつくるためには、細胞周囲をとりまく環境(細胞外微小環境)も再生しやすいように調整する必要がありそうです。この意味で私たちは「再生促進環境の構築」にも注目して現在研究を進めています(割田ら,Clinical Neurosci, 2008)。

(文責:青木正志)

 

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神経変性(パーキンソン病および関連疾患)

 

 パーキンソン病(以下PD )はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患です。関連疾患としてレビー小体型認知症や多系統萎縮症などが知られています。これらの疾患は超高齢化社会を迎えた先進諸国において大きな社会問題となっている一方で、治療の基本は対症療法に留まっており、進行予防や根治療法は未だ確立していないのが現状です。東北大学神経内科パーキンソン病研究グループは分子・細胞生物学的手法による基礎的研究から、分子イメージングを駆使した臨床研究まで多角的な視点からPDおよび関連疾患の病態研究、早期診断および治療法開発に取り組んでいます。

1) 異常タンパク凝集・小胞輸送機能に着目したPDおよび関連疾患の分子病態解明

培地中のαSYN曝露により神経細胞内に生じたLewy小体様封入体神経変性疾患の脳組織を顕微鏡下に観察すると、病変部位に一致して異常凝集タンパク(=アミロイド様物質)の蓄積が確認されるという共通の特徴がみられます。PDや多系統萎縮症では、神経・グリア細胞内に細胞毒性を有するαシヌクレインという異常なタンパク質凝集物が蓄積し、レビー小体あるいはグリア細胞内封入体(GCI)と呼ばれる細胞内凝集体が形成され、年月とともに神経変性が進行して行きます。我々は分子・細胞生物学的手法を駆使し、レビー小体・GCIの主要構成成分であるαシヌクレインのリン酸化、凝集化による神経・グリア細胞変性機序、カテコラミン酸化物による神経変性機構を明らかにしてきました(Sugeno N, JBC 2008, Hasegawa T, J Neurochem 2008ほか)。
VPS35遺伝子ノックアウトハエの表現型解析  最近、神経細胞に蓄積したαシヌクレインは細胞外に放出された後、隣接する細胞へ再び取り込まれ周囲に病変を伝播させることが判明し、神経変性の進展型式を説明する新たな病態機序として話題となっています。我々はこれまで謎とされてきたαシヌクレインの細胞内侵入・分泌・分解に関与する細胞内小胞輸送システムを世界に先駆けて明らかとしてきました(Hasegawa T, PLoS One 2011, Konno M, Mol Neurodeg 2012, Sugeno N, J Biol Chem 2014)。これらと並行し、ショウジョウバエモデルやコンディショナルノックアウトマウスを用い、小胞輸送関連遺伝子異常(PARK17, ESCRTなど)による遺伝性・孤発性PDの病態解明研究を積極的に進めています。これらの研究を通じて得られた新知見をもとに、PDおよび関連疾患の根治・進行抑制治療を提案して行きたいと考えています。

 

 

2) アミロイドPETイメージングを用いたシヌクレイノパチーの早期診断・病期判定

正常者およびMSA患者のBF-227 PET画像比較 PDでは運動症状発現時にはすでに中脳黒質細胞は正常対象との比較で60%減少しているといわれており、今後の神経保護・再生治療を考える上でも早期診断確立が急務となっています。我々は脂溶性が高く細胞透過性に優れた新しいアミロイドトレーサー(BF-227)を用い、PDおよびその関連疾患であるMSA脳内に蓄積した異常凝集タンパクを可視化することに世界で初めて成功しました(Kikuchi A, Brain 2010)。BF-227 PETイメージングはシヌクレイノパチーの新たな診断・病期判定ツールとして注目を集めています。

 

 

3) PDの嗅覚障害・認知機能障害に関する臨床研究および治療介入試験

パーキンソン病における嗅覚障害は認知症発症の予測因子となる 近年PDにおいて認知症やうつ、嗅覚障害をはじめとする非運動症状への関心が高まっています。なかでも認知症はPDの生命予後を規定する重要な因子であることが明らかとなっています。我々は[18F]FDG-PETを用いた研究により、嗅覚障害の重症度が脳代謝異常の程度と良く相関することを明らかにしました(Baba T, Mov Disord 2011)。さらに縦断研究により嗅覚障害が最も高感度な認知症発症の予測因子であることを世界で初めて報告しました(Baba T, Brain 2012)。これらの研究成果をもとに、重度嗅覚障害を呈するPD患者さんに対する認知症治療薬ドネペジルの予後改善効果を検討する国内多施設共同プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験DASH-PD (Donepezil Application for Severe Hyposmic Parkinson Disease) を立ち上げています。

 

 

(文責:長谷川 隆文)

 

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筋疾患

 

写真 過去20年の間に筋疾患には大きな発展がありました。 1986-7年デュシャンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子として、ジストロフィンが発見されたことに端を発し、種々の筋の膜蛋白の異常によって筋ジストロフィーがひきおこされることが明らかになったのです。下腿屈筋に筋力低下が初発する三好型遠位型筋ジストロフィーとして知られていた疾患は、膜に局在する蛋白のひとつであるジスフェルリンの遺伝子変異によってひきおこされることが発見され、またこれまで原因不明とされてきた肢帯型筋ジストロフィーの中に多くのジスフェルリン遺伝子異常の患者さんがいることもわかってきました。当教室では西多賀病院神経内科と共同して日本人におけるジスフェルリン遺伝子異常の広汎な解析と治療にむけた研究を行なっています(図1.筋ジストロフィーの組織像)。

 炎症性筋疾患には多発筋炎(PM)、皮膚筋炎、封入体筋炎の病型が知られています。多発筋炎、皮膚筋炎はステロイドをはじめとする免疫学的治療が有効ではありますが、副作用のためにQOLが低下する患者さんも多く、よりターゲットを絞った治療法の開発が望まれます。また封入体筋炎においては強い炎症が筋組織でおきているにも関わらず、従来の免疫学的治療が無効であり、当教室では炎症性筋疾患の病態を解析をし、新たな治療の糸口を見出すための研究をしています。我々は最近、PM患者の筋組織を攻撃している炎症細胞は、炎症細胞の組織へのホーミング・抗原提示に関連するCCR7系のケモカインおよびケモカイン受容体を発現する事を明らかにしました(図2.多発筋炎におけるCCL19/CCR7ケモカイン系)。自己免疫病態を考慮する上で興味深く、更なる病態の解明に向けて検討を行っております。

(文責:竪山真規)

 

当講座からの英文論文はこちらを参照ください

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東北大学 神経内科
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