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研究トピックス

遺伝子治療の黎明期を迎えたALS

2022/06/13

 

Genetics of amyotrophic lateral sclerosis: seeking therapeutic targets in the era of gene therapy
Naoki Suzuki, Ayumi Nishiyama, Hitoshi Warita, Masashi Aoki
J Hum Genet. 2022 Jun 13. doi: 10.1038/s10038-022-01055-8. (Invited review)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、呼吸不全を引き起こし、死に至る難病である。運動ニューロン疾患である脊髄性筋萎縮症におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法の成功は、神経変性疾患の治療開発におけるパラダイムシフトとなった。ASO戦略によって遺伝子治療のターゲット選択の自由度が広がり、次々と同定されてきたALSの原因/疾患修飾遺伝子が次なる治療標的と考えられている。SOD1に対するTofersenはALSに対するASO治療開発の嚆矢となったが、実用化に向けては臨床試験プロトコルの改善と早期介入の工夫が不可欠である。
本総説ではALSの原因/疾患修飾遺伝子に関する知見をアップデートし、SOD1、FUS、TDP-43の変異症例を中心に、家族性ALSで確認された遺伝子変異とその臨床的特徴についてまとめた。C9ORF72変異の頻度は欧米と異なり日本では低く、相対的にSOD1やFUSが多いことから、遺伝子治療は民族ごとに標的遺伝子の選択が必要である。遺伝子治療開発の現状と展望について、倫理的な問題を含めて概要をまとめた。さらに、軸索内転写因子、神経筋接合部障害、局所翻訳異常、タンパク質分解異常、ミトコンドリア病態、軸索輸送障害、細胞骨格異常、軸索分岐など、ALSの新しい治療標的としての軸索病態の可能性について議論した。疾患修飾遺伝子の解明と新規分子病態への早期介入は、ALSの重要な治療戦略となることが期待される。

文責 鈴木直輝

 

 

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