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研究トピックス

難治性の吃逆・嘔気はNMO再発の前駆症状として重要である

2008/04/25

 

○高橋 利幸  (Takahashi T, Miyazawa I, Misu T, Takano R, Nakashima I, Fujihara K, Tobita M, Itoyama Y. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2008 Apr 17. [Epub ahead of print])

 難治性の吃逆・嘔気は、Neuromyelitis optica (NMO) に特徴的な症状と考えられ、我々の以前の検討では、NMOの47例中8例に認められたものの、多発性硬化症130例では1例も認められなかった。これらの症状は、延髄背側の吃逆・嘔吐中枢を含む病変によって生じると推定され、そのMRI画像上の特徴も明らかにした(Misu et al. Neurology 65:1479-82,2005)()。今回、NMOに極めて特異性の高い血清自己抗体である抗アクアポリン4(AQP4)抗体が測定可能になったことから(Takahashi et al. Brain 130:1235-43, 2007)、抗AQP4抗体陽性のNMOおよびHigh-risk syndrome(NMOの部分症と考えられる再発性視神経炎や再発性脊髄炎)症例における、難治性の吃逆・嘔気の臨床的意義について検討を行った。対象とした35例中15例(43%)に、難治性の吃逆・嘔気の既往があった。その15例での35回の再発エピソードのうち、吃逆は66%、嘔気は80%の再発で確認された。吃逆・嘔気は、主要な神経症状よりも前駆して生じることが多く(54%)、さらに、吃逆・嘔気に前駆して、しばしば感冒様症状が出現していた。また、感冒様症状に引き続き難治性吃逆を生じた1例で、抗AQP4抗体価の推移を確認したところ、吃逆が生じた時点で著明な抗体価の上昇を認めていた。最近の知見は、抗AQP4抗体がNMOの病態に深く関わることを、強く示唆している。特に、NMO病変の好発部位はAQP4の高発現部位と一致しており、その病変部位ではAQP4分子の消失が認められる(Misu et al. Brain 130:1224-34, 2007)。吃逆・嘔気に関わる延髄背側部(最後野Area postrema:AP)もAQP4の高発現部位であり、かつ、解剖学的な血液脳関門を欠いている()。このため、抗体の影響をより受けやすい可能性があり、それが神経症状に前駆する吃逆・嘔気に結び付いているのではないか、と推測された。すなわち、ウイルス感染→抗体価の上昇→吃逆・嘔気の出現→神経症状の出現、という仮説が考えられ、吃逆・嘔気の段階での治療介入により、引き続く失明や四肢麻痺を回避できる可能性も考えられた。

 

 

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