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研究トピックス

軸索表面のイオン動態およびチャネルの幾何学的分布に焦点を置いた新たな神経伝導理論

2017/10/12

 

軸索表面のイオン動態およびチャネルの幾何学的分布に焦点を置いた新たな神経伝導理論
Akaishi T (2017) New Theoretical Model of Nerve
Conduction in Unmyelinated Nerves. Front. Physiol. 8:798. doi: 10.3389/fphys.2017.00798


これまで神経伝導は等価回路モデルおよびケーブル理論をもとに、軸索膜が持つキャパシタンスとしての特性、および軸索膜上のイオンチャネルが持つコンダクタンスとしての特性をモデル化して数理的に説明されてきた。しかしそこから導かれる神経伝導特性の記述には2階の偏微分方程式が含まれ、膜電位の拡散を説明する一般解の導出は容易ではなかった。またマクスウェル方程式の第1式と第2式によれば活動電位の発生は主にイオンの動態変化により説明されると考えられるが、それを規定するイオンチャネルの幾何学的な分布に関しては深く考慮されてこなかった。
本研究ではまず、従来の理論にもとづき膜表面を膜電位が経時的に拡散してゆくモデルを仮定して、軸索上のある1つのチャネルにおいて許容される伝導時間を実際に計算したところ、それは十分量の膜電位の発生に要する時間よりはるかに短いことが示唆された。
この結果から、活動電位が拡散方程式に基づいて伝播するという従来の伝導理論とは異なるモデルとして、チャネルを通過した陽イオンにより隣接するチャネル周囲に生じる電場の変化に着目した新たな伝導理論を考えた。負に帯電しているNaVチャネル表面には陽イオンが高密度に分布しており、静止膜電位においては周囲の軸索膜の内表面におけるイオン分布と異なる電荷分布を呈する。この分布均衡は隣接するチャネルが活性化した際に流入する陽イオンからの静電気力により崩され、チャネルの活性化がもたらされる。この伝導理論により、従来の理論が内在する上述の時間的課題を克服することができ、また軸索径と伝導速度の関係も容易に説明することが可能になる。
本理論を従来の等価回路モデル等と相補的に応用することができれば、未解明の点が多い有髄神経伝導や、マクロな神経ネットワークが生み出す生理学的現象の解明にも繋がることが期待される。(文責:赤石 哲也)

 

 

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