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モントリオール留学だより

2008/03/10

 

 平成19年4月から1年間の予定でカナダモントリオールにあるマギル大学に留学しております。モントリオールはフランス語ではMontrealと綴られ、モ・レアルと発音します。人口162万人でケベック州最大、カナダ全土ではトロントに次いで2番目に大きい都市です。また、フランス語圏ではパリに次ぐ大都市です。日本でいうと札幌と同じくらいの規模で、緯度は稚内と同じ(北緯45度)です。


 モントリオールはフランス語が公用語なので、日系企業の進出がトロントやバンクーバーに比較して極端に少なく、街中で日本人ビジネスマンを見ることはまずありません。モントリオール在住の日本人は約2千人で、そのうちのほぼ半数が研究職あるいは学生で、しかも4分の3は女性だそうです。北米の他の大都市に比べると治安が良く、独身女性でも比較的安心して住める街として人気があるのかもしれません。ただ、日本人が少ないので、日系の食材や書籍などはとても手に入りづらく、一部の韓国食材店で米などの必需品を買っています。


 モントリオールは1年のうち、約半年間が厳しい冬です。真冬になると連日朝の気温は-20℃まで下がり、風のある日には日中ですら体感気温が-30℃になることも珍しくありません。そのため、建物はすべて分厚い煉瓦やコンクリートで頑丈に作られ、ボイラーを使って集中暖房されています。そのため多くの建物は常時23℃前後に保たれており、室内での生活は至って快適です。ほとんどのアパートでは給湯を含む水道代と暖房費は家賃に含まれており、電気代も安いので光熱費を全く気にすることなく快適に生活できます。また、今年は37年降りの大雪となり、1日で30センチ以上の積雪があることも珍しくないですが、大量の融雪剤と除雪車のおかげで交通網が麻痺することはあまりありません。留学前は冬の生活を心配していましたが、予想外に全くつらくありませんでした。

 一方、モントリオールの夏はとても賑やかです。日中の最高気温は25℃前後で湿度もそれほど高くはなく、非常に過ごしやすい爽やかな日が続きます。ほぼ毎週フェスティバルが開催され、街は音楽とファッションで彩られます。特に国際ジャズフェスティバルや国際フィルムフェスティバルは世界的にも有名で、世界中から観光客が訪れます。また、F1カナダグランプリの時期には街中にスーパーカーが横行し、6月から8月の毎週土曜日の夜にはセントローレンス川で打ち上げ花火の国際コンクールが開かれます。


 留学先のラボがあるのは、マギル大学に付属するモントリオール神経学研究所(MNI)でダウンタウン北部、モンロワイヤル山の麓にあります。独自の病院を有しており、神経内科、脳外科、精神科、リハビリ科などの診療を行っているほか、神経科学のあらゆる基礎研究を行っています。このため、MNIだけで85名を越える教授がいて、200人以上の研究者が60カ国以上から集っています。付属病院(モントリオール神経学病院)においても、1年間に1,800件以上の手術が施行され、1年間に受け入れる救急搬送は30,000件以上とも言われています。


 神経科学の基礎研究部門は10個ほどのユニットに細分されており、私の所属したユニットは神経免疫ユニットと呼ばれ、Jack Antel教授が主任を務めていて、3つのラボから構成されています。現在はそのうちの一つのDr. Amit Bar-Orのラボに客員研究員としてお世話になっています。Amitとの最初の出会いは2年前のサンディエゴでの学会で、当時ここに留学されていた北大の先生にご紹介いただきました。B細胞と多発性硬化症をテーマにした研究内容に強く惹かれ、自分の研究の発展のために是非とも共同研究をしたいと思い、その場で1年間の留学を約束してしまいました。当初はポスドクとして赴任する予定でしたが、マギル大学にはドクター取得後6年以上経過した研究者をポスドクとして受け入れないという規定があり、折角グラントを取得しても十分な給料が得られないことが判明し、やむを得ず客員研究員として1年間の長期研修でカナダに来ることになりました。ちなみに、こちらのポスドクの平均的な給料は月$4,000で、税金はかからないそうです。

 研究はいくつかのプロジェクトを手がけていますが、メインのプロジェクトはヒトB細胞の分化と抗体産生の研究です。多発性硬化症の髄腔内でオリゴクローナルにIgGが増加している原因を解明するのが目的で、抗原刺激の有無やT細胞との接触の有無、B細胞受容体の架橋刺激の有無、様々なサイトカイン刺激など、多発性硬化症の中枢神経で起こりうるいろんな条件の組み合わせによる末梢血B細胞の活性化、分化、抗体産生能などを調べています。最近、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)治療が多発性硬化症に有効であることが証明され、末梢血のB細胞が病態に深く関与していることが示唆されていますので、病態に繋がる結果が期待できます。


 こちらに来て早くも予定の1年が終わろうとしていますが、非常に充実した1年でした。実験に関しては予想以上にいい結果が得られて満足していますし、素晴らしい出会いもいっぱいありました。一緒に来た家族もとても楽しんで生活しており、ほとんど悩みやトラブルなく過ごしております。夏はフェスティバルやピクニック、冬はスキーやスケートと、ほぼ毎週末家族で外出しました。学会出張にも家族が同行し、夏休みにはカナディアンロッキーやプリンスエドワード島にナイアガラ、冬休みにはフロリダのオーランドにも遊びに行きました。日本にいるときには考えられないほど余暇を満喫していますが、こちらではそれが極当たり前のこととして受け入れられます。

 楽しく仕事をして楽しく暮らす。効率良く仕事するには十分な余暇が必要というカナダ人の価値観にすっかりはまってしまいました。おかげで集中して研究することができ、上記プロジェクトを含む2つのプロジェクトに関して筆頭著者として現在論文を執筆中です。

 日本に帰ってからも今回の経験を糧に一層頑張りたいと思っています。

平成20年3月10日
モントリオール神経学研究所
客員研究員
中島一郎

 

 

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