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ドイツ・チュービンゲン大学留学便り

2008/05/29

 

 私は2006年4月よりAlexander von Humboldt財団の助成を受け,南西ドイツ・バーデンビュルテンベルク州にあるチュービンゲン大学病院付属ハーティー臨床脳研究施設へポスドクとして着任し、Prof. Dr. Philipp Kahleの指導の下、パーキンソン病の分子病態についての研究に従事しています。戦災を免れたチュービンゲンはネッカー川のほとりにある中世時代の木組みの町並み(Fachwerk)が残る美しい大学町で、近くにはメルセデスベンツ、ポルシェの本社のある州都シュツットガルトがあります。町ゆかりの人物としては、天文学者のケプラー、作家のヘルマン・ヘッセ、詩人のヘルダーリン、「ローレライ」を作曲したジルヒャーなどが知られています。町の背後には有名な黒い森が眺望出来,Schwabisch Albと呼ばれるなだらかな丘陵地帯が拡がり、天気のいい週末には多くの人々がハイキングやサイクリングに繰り出します。ドイツ全土を網羅するアウトバーンのお陰で、ドイツ国内は勿論,スイスやフランス、オーストリアなどを日帰り旅行することも可能です。


 さて、研究開始当初は誰もが経験する様に、何処に何があるのか、試薬の注文は如何するのか等判らないことばかりでした。加えて立ち上がったばかりのラボで実験設備のセットアップも未完成の部分があり、諸般の苦労がありました。ラボメンバーに助けられながら、時間と共に環境が整い、又研究所全体で共有する研究設備(培養細胞設備、共焦点レーザー顕微鏡、アイソトープラボ等)もあったお陰で徐々に研究のスピードアップを図ることが出来ました。多くの方はドイツ人というと「頑固」、「仏頂面」といった印象を持たれる方のではと思います。確かに私のいる南ドイツは方言も強く、生真面目、節約家、どちらかというと余所者との接触を好まない、といった傾向がある様です。しかし実際付き合ってみるといつもニコニコ笑顔で挨拶し、とても親切な人にも少なからず出会います。皆とても個性的で、画一的でないという印象を強く持ちました。研究所長のProf. Dr. Thomas Gasserは家族性パーキンソン病の原因遺伝子の一つであるLRRK2の発見で世界的に有名です。直接のボスであるPhilippは40台前半の若い教授で、パーキンソン病のマウスモデルおよび細胞を用いた病態研究で多くの業績があります。彼はチュービンゲンに来る前はAlzheimer病の研究で有名なミュンヘンのChristian Haassのラボでグループリーダーをしていました。研究に関連してエレガントなストーリーを思いついた時や、positive dataが出た時などは子供の様にはしゃいで喜ぶなど、飾らない性格でとても陽気なnice guyです。「Functional neurogenetics」という看板通り、ラボメンバーは全員パーキンソン病に関連したタンパク( synuclein、parkin、PINK1、LRRK2、DJ-1、TDP-43)の分子病態について分子生物学、細胞生物学的手法を駆使し、独自のテーマをもって研究に取り組んでいます。私はドパミン神経毒性に対するparkinの細胞保護効果の分子機構,および synuclein凝集細胞モデルを用いた細胞死メカニズムの解析に従事しています。所属研究員は2名のテクニシャンを含め12人の比較的小さなラボで、メンバーの半数はスイス人のPhilippをはじめ、スペイン、ルーマニア、フィンランド、日本人(私)とドイツ以外の出身となっています。ラボの公用語は英語ですが,ドイツ語に混じり様々な外国語が飛び交っています。


 ラボでは各自の自主性が尊重され、何時に来て帰ろうが全くお構いなしです。多くの人はイースターとクリスマスに1-2週間の長期休暇(Urlaub)をとりますが、実験が立て込んでいる時は夜中や週末も返上で働きます。仕事にはとことん集中して取り組み、休暇はだれにも邪魔されることなく自由に過ごすというメリハリのついた生活がドイツ流です。研究所では毎週持ち回りで30分〜1時間程度各自の進行状況を発表する場があり、これがいいペースメーカーとなっています。聴衆には他のラボのメンバーも加わり、中途半端なデータには容赦なく厳しい意見が飛び出しますので、皆周到に準備して望みます。若い学生たちも含め、皆自分の発表をいかに魅力的にみせるかという才に長けており、感心すると供に私自身いい勉強となっています。


 この留学は研究者としての知識・視野を広げる大きなステップになったのは勿論、公私共に多くの貴重な出会いをもたらしてくれたと共に,家族の絆を再確認する貴重な場にもなりました。2008年9月の帰国まで残された時間は多くありませんが、出来るだけ多くの成果を残せたらと願っています。


平成20年5月29日
チュービンゲン大学(ドイツ)
ポスドク
長谷川隆文

 

 

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