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研究トピックス

ALSに対するHGF脊髄腔内投与 − 第I相試験結果の詳細

2019/05/07

 

Safety, Tolerability, and Pharmacodynamics of Intrathecal Injection of Recombinant Human HGF (KP‐100) in Subjects With Amyotrophic Lateral Sclerosis: A Phase I Trial.
Warita H, Kato M, Asada R, Yamashita A, Hayata D, Adachi K, Aoki M.
J Clin Pharmacol 2019; 59(5): 677-687. doi: 10.1002/jcph.1355.
[PubMed]

現在、東北大学病院と大阪大学医学部附属病院の2施設で実施中の医師主導治験:筋萎縮性側索硬化症(ALS)*を対象とした肝細胞増殖因子(HGF)脊髄腔内投与の第II相試験は、2011年から3年をかけて安全性と薬物動態を確認した第I相試験の成果にもとづいています。

今回、この第I相試験(治験)結果の詳細を論文発表しました。
この治験はHGFのヒト組換えタンパク質製剤(KP-100)を直接ヒトの脊髄腔に投与する世界で初めての試験でしたが、0.2 mgから2.0 mgまで段階的に用量を増やす単回投与試験の後、中等量と高用量による5回の反復投与試験をおこないました。重大な有害事象はなく、治験薬と投与法のいずれについても安全性を確認することができました。
薬物動態試験の結果、HGFを脊髄腔内に投与しても血漿中HGF濃度に上昇はみられず、HGFに対する抗体産生も認めませんでした。このようなHGFの反復投与による有効性と安全性を検証する第II相試験の完遂が期待されます。

この第I相試験には、のべ15名の軽症ALS患者さんが被験者としてご参加くださいました。被験者ご家族の方々、主治医の先生方には、あらためて感謝を申し上げます。また、本治験は実施体制整備から治験終了まで現・臨床研究推進センター(CRIETO)の全面的な支援を得ておこなわれました。

(*) ALSは、運動神経細胞の変性により発症からわずか数年で筋萎縮と筋力低下が進行し、呼吸筋麻痺にいたる難治性疾患です。国内患者数は約1万人(平成29年度末 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数 = 9,636人,厚生労働省)、国内外でリルゾールとエダラボンが承認されているものの症状改善効果がなく生存期間延長効果も限定的なため、新しい治療法が強く求められています。
現在、国内では5つのALS医師主導治験が進行中です。当教室ではいち早くALSの医師主導治験にとりくみ、大阪大学,慶應義塾大学,クリングルファーマ株式会社との共同研究により本邦発の強力な神経保護因子のひとつ、HGFを脊髄腔内へ選択的に投与する新しいALS治療法の開発を進めてきました。

【参 考】
ALSに対するHGFの第I相試験(治験)登録情報: UMIN000007062(UMIN試験ID)
脊髄損傷急性期に対するHGFの第I/II相試験結果(日本再生医療学会)

(割田 仁)

 

 

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