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研究トピックス

FUS変異ALS患者由来運動ニューロンにおける異常軸索分岐はFos-Bがメディエーターとなる

2019/06/28

 

Aberrant axon branching via Fos-B dysregulation in FUS-ALS motor neurons.

Akiyama T, Suzuki N, Ishikawa M, Fujimori K, Sone T, Kawada J, Funayama R, Fujishima F, Mitsuzawa S, Ikeda K, Ono H, Shijo T, Osana S, Shirota M, Nakagawa T, Kitajima Y, Nishiyama A, Izumi R, Morimoto S, Okada Y, Kamei T, Nishida M, Nogami M, Kaneda S, Ikeuchi Y, Mitsuhashi H, Nakayama K, Fujii T, Warita H, Okano H, Aoki M.

EBioMedicine. 2019 Jun 28. pii: S2352-3964(19)30388-3. doi: 10.1016/j.ebiom.2019.06.013.

iPS細胞を用いて筋萎縮性側索硬化症の新規病態を発見
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの障害を特徴とする神経変性疾患です。ALS患者の運動ニューロンでは、ニューロンの細胞体から筋肉へ伸びる「軸索」と呼ばれる突起構造が早期に障害されることが知られています。我々は家族性ALSの原因遺伝子のうち、日本人で2番目に多いfused in sarcoma(FUS)遺伝子に注目し、FUSに変異を持つ家族性ALS患者よりiPS細胞(注1)を樹立しました。さらに、健常者由来のiPS細胞やALS患者由来のiPS細胞のFUS遺伝子をゲノム編集技術により組み換え、人為的な健常株とALS株を作成しました。それらのiPS細胞から運動ニューロンを誘導して細胞の形を確認した結果、FUS遺伝子に変異がある運動ニューロンの軸索では分岐が増えるという現象を見出しました(図1)。さらに、軸索のみを回収できるマイクロ流体デバイス(注2)と、RNAシーケンス(注3)を組み合わせて軸索のRNAを分析する手法を確立し、軸索形態異常に関連する因子としてFos-B(注4)を同定しました。ALS株ではFos-Bの発現が増加しており、また、Fos-Bの抑制により、FUS変異を有する運動ニューロン軸索の形態を改善できることを示しました(図1)。また、Fos-Bを人工的に発現させることでゼブラフィッシュの運動ニューロン軸索も異常に分岐することを確認し、生体内におけるFos-Bの機能の重要性も示しました。本研究で用いた軸索の解析手法は、ALS以外の神経変性疾患へも応用可能な技術基盤となりえます。軸索形態の変化は運動ニューロン変性の早期に起こるため、Fos-BはALSの早期治療標的として期待されます。また、Fos-Bによる軸索形態変化への影響は神経発生・再生のメカニズムを解明する上でも重要と考えられます。以上のように、本研究成果はALSの運動ニューロンの軸索形態の異常という新たな表現型を明示しただけでなく、その表現型に関連する因子Fos-Bを世界で初めて明らかにした重要な報告です。
【用語説明】
注1.iPS細胞(induced pluripotent stem cell): 人工多能性幹細胞とも言われ、目的細胞へ分化誘導可能な多能性を獲得した細胞。
注2.マイクロ流体デバイス: ここでは、軸索のみが通過可能なマイクロ流路を有する特殊な培養デバイスを指す。ニューロンの細胞体と軸索を分離して培養できるデバイスで、軸索のみの解析が可能。
注3. RNAシーケンス: RNAを網羅的に解析する手法の一つ。
注4.Fos-B:遺伝子発現を調節する転写因子タンパク質の遺伝子。最初期遺伝子と呼ばれる遺伝子群の一つで、神経細胞では神経活動に伴い発現が増えることが知られるが、運動ニューロンでの役割はわかっていない。
 本研究成果は日本時間2019年6月29日付けで、オープンアクセス学術誌「EBioMedicine」に掲載されました。本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などの支援を受けて行われました。また日本経済新聞等メディアでも紹介されました。

 

 
図.png (図.png)
 
tohokuuniv-press20190702_01web_IPS.pdf (tohokuuniv-press20190702_01web_IPS.pdf)

 

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