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研究トピックス

神経・オリゴデンドログリア細胞におけるαシヌクレイン取り込みに関する研究

2012/08/15

 

ダイナミンGTPase抑制により神経・オリゴデンドログリア細胞におけるαシヌクレイン取り込みが減少する:シヌクレイノパチーの治療ターゲットの可能性

Suppression of Dynamin GTPase Decreases α-Synuclein Uptake by Neuronal and Oligodendroglial Cells: A Potent Therapeutic Target for Synucleinopathy.
Masatoshi Konno, Takafumi Hasegawa*, Toru Baba1, Emiko Miura, Naoto Sugeno, Akio Kikuchi, Fabienne C. Fiesel, Tsutomu Sasaki, Masashi Aoki, Yasuto Itoyama, Atsushi Takeda  (*corresponding author)

Molecular Neurodegeneration 2012, 7:38  doi:10.1186/1750-1326-7-38
リンク先:http://www.molecularneurodegeneration.com

 当教室の長谷川隆文助教、今野昌俊医師および武田篤准教授らのパーキンソン病研究グループは、抗うつ薬の一種であるセルトラリンにパーキンソン病とその類縁疾患の病変拡大を抑制する効果がある可能性を世界で初めて明らかにしました。この発見は、上記疾患の病態解明および今後の治療戦略に大きな影響を与えることが予想されます。研究成果は米国科学雑誌「Molecular Neurodegeneration」電子版に掲載されました。

【研究の背景】
 パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患で、ふるえ、動作緩慢、筋のこわばりといった運動症状に加え、便秘や起立性低血圧といった自律神経症状や嗅覚低下、認知症などのなどの非運動症状を併発することが知られています。同様の病態をもつ疾患としてレビー小体型認知症、多系統萎縮症等が挙げられます。パーキンソン病や多系統萎縮症では、脳内の神経・グリア細胞内に毒性をもつアルファシヌクイレン(αSYN )とよばれる異常なタンパク質凝集物が蓄積し、レビー小体あるいはグリア細胞内封入体といった細胞内凝集体が形成され、年月とともに神経変性が進行して行きます(図1)。近年このαSYNは細胞外に放出された後、隣接する細胞へ再び取り込まれ周囲に病変を伝播させることが判ってきました。

【研究成果】
 長谷川助教らのグループは細胞内へ物質を取り込むエンドサイトーシス機能において重要な役割をもつダイナミンというタンパクに着目し、遺伝子操作によりダイナミン機能を抑えることで神経細胞へのαSYN取り込みが抑えられることを確認しました。さらに、強力なダイナミン阻害作用を有するセルトラリンが、神経・グリア細胞へのαSYN取り込みを低減させ、細胞間におけるαSYN伝播を抑制することを培養細胞モデルを用いて証明しました(図2)。

【発見の意義】
 パーキンソン病や多系統萎縮症の脳細胞の喪失は数年以上に渡りゆっくりと進んで行きますので、早期に病気を発見しセルトラリンの服用を開始することにより、周辺への病変拡大が抑えられ症状進行を遅らせることが期待されます(図3)。なお、今回の発見は培養細胞を用いた基礎的研究によるものであり、臨床応用に当たっては今後動物実験やランダム化臨床試験等により有効性と安全性を検証する必要があります。

図1 パーキンソン病患者(左、赤矢頭)および多系統萎縮症患者(右、青矢頭)脳内の神経・グリア細胞に蓄積したαSYN陽性の細胞内凝集体

図2 神経・グリア細胞へのαSYN取り込みはダイナミン機能阻害により抑制される

図3 αSYN細胞間伝播現象とセルトラリンによるその抑制効果

 

 

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