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研究トピックス

αシヌクレインの細胞外分泌およびリソソーム移行はAAA型ATPase VPS4により制御される

2012/01/07

 

The AAA-ATPase VPS4 regulates extracellular secretion and lysosomal targeting of alpha-synuclein
Takafumi Hasegawa, Masatoshi Konno, Toru Baba, Naoto Sugeno, Akio Kikuchi, Michiko Kobayashi, Emiko Miura, Nobuyuki Tanaka, Keiichi Tamai, Katsutoshi Furukawa, Hiroyuki Arai, Fumiaki Mori, Koichi Wakabayashi, Masashi Aoki, Yasuto Itoyama, Atsushi Takeda
PLoS ONE 2011, 6, e29460.

PLoS ONEリンク先
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0029460

多くの神経変性疾患において、病初期に特定の領域に病理変化を生じ、時間経過と共に周辺へと拡大してゆく現象は、臨床症状、病理および画像所見の観察から容易に推定される事実である。近年の細胞・動物モデルおよび患者剖検脳を用いた検討においても異常凝集タンパク伝播による病変拡大の可能性が確認され、いわゆる『プリオン仮説』として関心を集めている。我々はパーキンソン病(PD)におけるαシヌクレイン(aSYN)細胞間伝播の分子機構を解明する目的で研究を行い、以下の新知見を得ることが出来た。

(1) 細胞内においてaSYNの殆どは細胞質に存在するとされている。しかし、aSYNが膜輸送系により細胞に分泌あるいは吸収されるならば、細胞内の aSYNの一部はエンドソームコンパートメントに存在する必要がある。我々はEGFP標識した初期・後期・リサイクリングエンドソーム特異タンパクであるRab5・Rab7・Rab11を発現する細胞を用い、細胞内においてこれらのオルガネラとaSYNの一部が共局在することを確認した(図1)。
(2) プリオン病におけるプリオンタンパクは、後期エンドソーム(Multivesicular body:MVB)に由来する細胞外ナノベジクルであるエキソソームに高濃度で存在することが知られている。そこで我々は神経細胞培地上清および健常人・PD患者髄液からショ糖密度勾配遠心法を用いてエキソソームを単離し、同画分におけるaSYNの局在を調べてみた。その結果、大部分の細胞外aSYNはエキソソームに含まれず、フリーの状態で存在していることが判明した(図2)。
(3) aSYNの細胞外分泌がエキソソームに依存するならば、エキソソーム形成阻害により、細胞外aSYNが減少するはずである。そこで我々は、MVB・エキソソーム形成に必須であるVPS4のドミナントネガティブ変異体によりエキソソーム形成を抑制した細胞を用い、培地へのaSYN分泌量に変化が生じるか否か検討した。すると意外なことにMVB・エキソソーム形成が障害された細胞では培地中に分泌されるモノマー/オリゴマーaSYNが著増するとともにリソソームへのaSYNが減少することが示された(図3)。
(4) 細胞分画によりオルガネラ中のaSYNを検討したところ、細胞質中と比べ、エンドソーム、リソソーム中のaSYNは非常に凝集傾向が強いことが確認された。この結果から我々はエンドソーム、リソソーム中で凝集化したaSYNはレビー小体形成の基となっている可能性を考えた。そこで、エンドソーム・リソソーム系のmaster regulatorであるVPS4の抗体を用いてPD患者脳の免疫組織染色を行った。その結果驚く事に、黒質のレビー小体(core部分)の90%はVPS4強陽性であることが確認された(図4)。
(5) さらに、細胞外へ分泌されるaSYNは、リサイクリングエンドソーム機能に必須であるRab11aの障害により減少することが確認された(図5)。aSYN分泌にはエキソソーム経路よりも、同分子の関与するリサイクリング経路がより積極的に関与していることが推察された(図6)。

 プリオン仮説は異常タンパク凝集を特徴とする変性疾患に共通した病態機序である可能性がある一方、その背景にある細胞生物学的メカニズムについてはこれまで殆ど明らかにされていなかった。今回の研究で、その一端が解明出来たことは意義深いことと思われる。現在、異常タンパク伝播の機序をさらに詳細に検討すべく、他の細胞内膜輸送系の探索を行うと共に、動物モデルを用いたin vivoでの検証実験も進めている。これらの研究を通じて、将来的には異常タンパク伝播阻止に着目した新たな神経変性疾患治療を提案したいと考えている。

 

 
図1&図2 (図1-2.jpg)
 
図3&図4 (図3-4.jpg)
 
図5&図6 (図5-6.jpg)

 

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