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研究トピックス

神経特異的ESCRTの障害はオートファジー停滞による異常タンパク蓄積と共に、ERストレスを介したアポトーシス・ネクロトーシスを誘導する

2016/04/27

 

ESCRT-0 dysfunction compromises autophagic degradation of protein aggregates and facilitates ER stress-mediated neurodegeneration via apoptotic and necroptotic pathways
Oshima R, Hasegawa T*, Tamai K, Sugeno N, Yoshida S, Kobayashi J, Kikuchi A, Baba T, Futatsugi A, Sato I, Satoh K, Takeda A, Aoki M and Tanaka N. (*corresponding author)
Scientific Reports 2016, 6:24997. DOI: 10.1038/srep24997


【研究内容】
 パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病などに代表される神経変性疾患では、脳内に毒性を有する異常なタンパクが凝集・蓄積することで神経細胞が徐々に変性し、やがては死滅してしまうことが知られている。正常な神経細胞では、オートファジー注1とよばれる細胞内機構が働いており、異常タンパクは適切に分解され蓄積しない様に制御されている。今回我々は、コンディショナルノックアウトマウスおよびラット海馬初代培養神経細胞モデルなどを用い、(1) ESCRT(Endosomal Sorting Complex Required for Transport)注2とよばれる細胞内の物質輸送(小胞輸送注3)に重要な分子の異常により、マウス脳内にユビキチン化されたαシヌクレイン、TDP-43、ハンチンチンなど変性疾患に関連した異常凝集タンパク質の蓄積が起こり、その結果神経変性による運動機能低下と寿命短縮が生じること、および(2)ESCRT欠損神経細胞では異常タンパク質のオートファジーによる分解が停滞していることを確認した(図1)。また、(3) ESCRT欠損により蓄積した異常タンパク質が小胞体ストレス・ストレスキナーゼJNK(c-Jun N-terminal Kinase)注4の活性化を経てカスパーゼ依存性のアポトーシス注5およびRIPK1 (Receptor Interacting Protein Kinase 1)-RIPK3依存性のネクロトーシス注6とよばれる2つの細胞死メカニズムによって、神経細胞を死滅させることを発見した(図2)。さらに、 (4) アポトーシス阻害剤に加えネクロトーシス阻害剤(ネクロスタチン-1)が、ESCRT欠損による神経細胞死を抑制することを明らかにした。
 異常タンパク質の蓄積とその除去は多くの神経変性疾患に共通した重要な病態プロセスであると推定されており、ESCRTはこれらの疾患の発症過程に深く関与している可能性がある。今回得られた知見を下に、今後患者剖検脳を用いたESCRT分子、ネクロトーシス経路の活性化の確認や、経口投与可能なネクロトーシス阻害剤を用い神経変性疾患モデル動物での治療実験を実施する予定である。

【図説明】
図1 ESCRT障害はオートファジー機能障害による異常タンパク蓄積と神経変性をもたらす
A: ESCRT(ESCRT-0/Hrs)ノックアウトマウスでは、脳内神経細胞に異常凝集タンパクが蓄積する(白矢頭)とともに、B: 海馬CA3・CA1神経細胞の変性脱落が生じる(黒矢頭)。C: ESCRT欠損神経細胞ではオートファジー分解が停滞し、クロロキン(オートファジー阻害剤)処理細胞同様に異常に拡大したオートファゴソーム形成が認められる(赤枠)。

図2 ESCRT障害による異常タンパク蓄積、神経細胞死誘導のメカニズム 正常神経細胞ではオートファジーの機能により、異常タンパクが適切に分解処理されている。一方、ESCRT機能が障害されると、異常タンパクのオートファジー分解が停滞し異常凝集タンパクの蓄積が生じる。この結果、小胞体ストレス・ストレスキナーゼ活性化が生じ、アポトーシスとネクロトーシスによる神経細胞死が誘導される。


【用語説明】
注1.オートファジー:細胞質成分を隔離膜で取り囲み、不要なタンパク質や老朽化したミトコンドリアなどを分解処理する機構。異常タンパク質の蓄積を防いだり、栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったりすることで、細胞内の恒常性を維持することに寄与する。
注2.ESCRT:Endosomal Sorting Complex Required for Transportの略。エンドソーム膜上に局在し、細胞内で様々な物質の選別・分解・再利用を制御するタンパク質の複合体。ESCRT構成分子は神経変性疾患脳内に蓄積する異常タンパク質に含まれるほか、複数の神経変性疾患の原因遺伝子となることが知られている。
注3.小胞輸送:膜の分裂や融合により細胞内小器官同士あるいは細胞膜と細胞内小器官の間で、小胞を介してタンパク質や脂質などの輸送を行う機構。酵母からヒトに至るまで保存された重要な細胞内システムであり、発生、増殖因子受容体の分解と再利用、細胞外分泌、細胞分裂、オートファジーなどに関与している。
注4.ストレスキナーゼ:紫外線や放射線、酸化、熱ショック、異常タンパク蓄積などの様々な環境ストレス刺激によって活性化され、ストレスを被った細胞に細胞死を誘導するタンパク質リン酸化酵素の一群。
注5.アポトーシス:細胞の死に方の一種で、積極的に引き起こされる、計画的かつ能動的な細胞死のこと。プログラムされた細胞死ともよばれる。 管理・制御されない受動的な細胞死であるネクローシスの対義語として用いられる。
注6.ネクロトーシス:ネクローシスと同様の形態学的特徴を有するが、管理・制御された細胞死として近年新しく提唱された細胞死の概念。ネクロトーシスの実行にはRIPK1、RIPK3分子の活性化が重要な役割を有している。ネクロスタチン-1 はRIPK1の選択的阻害剤として作用する。

(文責:長谷川隆文)

 

 
ESCRT.pdf (ESCRT.pdf)

 

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